2025,10,19, Sunday
舞台がはねて外へ出る。火照った身体と心に、冷たく爽やかな風が心地好い。季節は移り変わり秋。一体あれは何だったんだ?
あれとは、今年の夏の猛暑の頃こと。
稽古初日は8月20日、稽古場通いが始まる。ここから同時に私の戦いも始まった、酷暑の日々の中で。ここに記すのは、憐れ且つ惨めな私の奮闘記。
遡ること8月の初旬。台本をもらった。遅いぞ台本!稽古初日まで後二週間位しかないじゃないか!それまでにある程度は台詞を入れておかねばならないのだ!しかし冷静な私はここでぐっと押さえて、与えられた運命を逆らうことなく享受することにした。さあ、気持ちを切り替え、覚えるぞ台詞を!
ところがである。この戯曲、何だか台詞が覚えにくいのだ。判明した!この戯曲には整然とした脈絡が欠落しているのだ!登場人物の性格も一貫性がない。次に予想されるような台詞が少ないのだ。皆、次に何を言い出すかわからない!おまけに同じような台詞の繰り返しも多い。おい、稽古初日までに覚えられるのか?
さて、稽古初日である。結果は、覚えられなかった!それにしても稽古場通いが暑い!ま、それはさておき、通例初日は台本を見ながらの本読みである。これは何とかクリアできる。台本を見ていいのだから。読み稽古は皆で台本を読みながら、戯曲の全体像を捉える期間である。後は一週間後の立ち稽古までに、全部の台詞を覚えられるかである。
さて、立ち稽古。台詞、覚えられなかった!何故だ!暑さのせいか?年のせいか?話は変わるが、このころ私はこの稽古に際し、私の高年齢に関して三つの誓いを立てた。それは〈愚痴らない〉〈泣き言を言わない〉〈言い訳をしない〉である。カツコつけたかったのだ。話を戻す。立ち稽古では台本を離したかった。台本を見ながらでは、演技に集中力できないからである。相手役にも失礼だ。と言うわけで、酷暑の中家に帰っても記憶力との戦いが始まる。自分の台詞を全部ノートに書き出しもした。殆んど効果がなかった。それに費やした時間とボールペンのインクの消費は何だったのだろう。徒労に終った。泣きたくなった。泣かなかった。誓いがあるから。
稽古中盤。ある程度は台詞が入ってきた。でもまだまだ完璧ではない。台詞が止まる。と言うことは、芝居の流れも止まると言うことだ。相手役の感情の流れも止めさせるということ。舞台の芝居とは、一瞬たりとも止まるということがあってはならないのだ。ああ、皆に迷惑をかけている。プロンプターの仕事も無駄に増やしてる。記憶力の衰退は年のせいだと、自分を慰めようともした。でも止めた。言い訳はしないと誓ったのだから。
稽古終盤。世の中まだ暑い。台詞、不完全ではあるが、まあまあ覚えた。しかし台詞と言うものは、覚えただけじゃ駄目。何故その台詞を言わなければならないのか、何故その台詞を言いたくなったのか、何故その台詞をそこで言うのか等々、演技のワークショップみたいなことをクリアしなければならない。家でも連日、台本とにらめっこの日々だ。舞台稽古の日が迫る!初日が迫る!ああ、時よ止まれ!せめてもう数日の猶予を私に与えてくれ!えーい、愚痴は言うまい、誓ったのだから。
舞台稽古。劇団員の連中が観に来る。知ったことか!どうともなれ!開き直る。ノッキングも多々あったが、どうにか芝居が流れた!良かった!
初日。お客様の有り難みが改めて分かった。自分達の芝居を観ていてくれる息遣いが伝わって来た!自分達の味方なのだ!自分達はお客様と一緒に芝居を作り上げているのだと実感した!嬉しかった。役者として生きてる感じがした。これから連日続く公演、身を引き締めて行こうと誓った。
公演を続けてきた。日々芝居は進化しているという実感がある。良いことだ、芝居はなま物なのだから。また、お客様に感謝の日々でもある。
そして、今日は千秋楽。全ての事とお別れだ。



素敵な舞台装置、さようなら、有り難う!お客様、有り難う、また会う日まで!雑然とした楽屋、皆の人間味が溢れている場所だった。さようなら、有り難う!
私は最後の幕が閉じ、これらのものがきれいに片付けられ、素っぴんとなった空間を眺めるのが好きだ。桜が満開となって、その後全てが、ぱっと散り尽くすような。潔いではないか!感傷には浸りたくない。決して全てが無くなるのではない。各々の心の中に記憶として残るのだ。そう信じたい。それが舞台というものではないか。
え?ところで、私の奮闘記、戦いは勝ったのか、負けたのかですって?うーん、ま、それは皆さんの想像にお任せしましょう!
最後に。この舞台に携わった全ての皆さんと、応援してくださった全てのお客様に感謝です!有り難うございました!さようならー、またどこかでお会いましょーう!
え?千秋楽、ラスト・ステージはこれからですって?そうでした、そうでした、何だか万感胸に去来するって言うんですか?色々な思いが溢れて来てね。
さ、気持ちを切り替えて、ラスト・ステージ、いざ出陣!!!
金尾哲夫
あれとは、今年の夏の猛暑の頃こと。
稽古初日は8月20日、稽古場通いが始まる。ここから同時に私の戦いも始まった、酷暑の日々の中で。ここに記すのは、憐れ且つ惨めな私の奮闘記。
遡ること8月の初旬。台本をもらった。遅いぞ台本!稽古初日まで後二週間位しかないじゃないか!それまでにある程度は台詞を入れておかねばならないのだ!しかし冷静な私はここでぐっと押さえて、与えられた運命を逆らうことなく享受することにした。さあ、気持ちを切り替え、覚えるぞ台詞を!
ところがである。この戯曲、何だか台詞が覚えにくいのだ。判明した!この戯曲には整然とした脈絡が欠落しているのだ!登場人物の性格も一貫性がない。次に予想されるような台詞が少ないのだ。皆、次に何を言い出すかわからない!おまけに同じような台詞の繰り返しも多い。おい、稽古初日までに覚えられるのか?
さて、稽古初日である。結果は、覚えられなかった!それにしても稽古場通いが暑い!ま、それはさておき、通例初日は台本を見ながらの本読みである。これは何とかクリアできる。台本を見ていいのだから。読み稽古は皆で台本を読みながら、戯曲の全体像を捉える期間である。後は一週間後の立ち稽古までに、全部の台詞を覚えられるかである。
さて、立ち稽古。台詞、覚えられなかった!何故だ!暑さのせいか?年のせいか?話は変わるが、このころ私はこの稽古に際し、私の高年齢に関して三つの誓いを立てた。それは〈愚痴らない〉〈泣き言を言わない〉〈言い訳をしない〉である。カツコつけたかったのだ。話を戻す。立ち稽古では台本を離したかった。台本を見ながらでは、演技に集中力できないからである。相手役にも失礼だ。と言うわけで、酷暑の中家に帰っても記憶力との戦いが始まる。自分の台詞を全部ノートに書き出しもした。殆んど効果がなかった。それに費やした時間とボールペンのインクの消費は何だったのだろう。徒労に終った。泣きたくなった。泣かなかった。誓いがあるから。
稽古中盤。ある程度は台詞が入ってきた。でもまだまだ完璧ではない。台詞が止まる。と言うことは、芝居の流れも止まると言うことだ。相手役の感情の流れも止めさせるということ。舞台の芝居とは、一瞬たりとも止まるということがあってはならないのだ。ああ、皆に迷惑をかけている。プロンプターの仕事も無駄に増やしてる。記憶力の衰退は年のせいだと、自分を慰めようともした。でも止めた。言い訳はしないと誓ったのだから。
稽古終盤。世の中まだ暑い。台詞、不完全ではあるが、まあまあ覚えた。しかし台詞と言うものは、覚えただけじゃ駄目。何故その台詞を言わなければならないのか、何故その台詞を言いたくなったのか、何故その台詞をそこで言うのか等々、演技のワークショップみたいなことをクリアしなければならない。家でも連日、台本とにらめっこの日々だ。舞台稽古の日が迫る!初日が迫る!ああ、時よ止まれ!せめてもう数日の猶予を私に与えてくれ!えーい、愚痴は言うまい、誓ったのだから。
舞台稽古。劇団員の連中が観に来る。知ったことか!どうともなれ!開き直る。ノッキングも多々あったが、どうにか芝居が流れた!良かった!
初日。お客様の有り難みが改めて分かった。自分達の芝居を観ていてくれる息遣いが伝わって来た!自分達の味方なのだ!自分達はお客様と一緒に芝居を作り上げているのだと実感した!嬉しかった。役者として生きてる感じがした。これから連日続く公演、身を引き締めて行こうと誓った。
公演を続けてきた。日々芝居は進化しているという実感がある。良いことだ、芝居はなま物なのだから。また、お客様に感謝の日々でもある。
そして、今日は千秋楽。全ての事とお別れだ。



素敵な舞台装置、さようなら、有り難う!お客様、有り難う、また会う日まで!雑然とした楽屋、皆の人間味が溢れている場所だった。さようなら、有り難う!
私は最後の幕が閉じ、これらのものがきれいに片付けられ、素っぴんとなった空間を眺めるのが好きだ。桜が満開となって、その後全てが、ぱっと散り尽くすような。潔いではないか!感傷には浸りたくない。決して全てが無くなるのではない。各々の心の中に記憶として残るのだ。そう信じたい。それが舞台というものではないか。
え?ところで、私の奮闘記、戦いは勝ったのか、負けたのかですって?うーん、ま、それは皆さんの想像にお任せしましょう!
最後に。この舞台に携わった全ての皆さんと、応援してくださった全てのお客様に感謝です!有り難うございました!さようならー、またどこかでお会いましょーう!
え?千秋楽、ラスト・ステージはこれからですって?そうでした、そうでした、何だか万感胸に去来するって言うんですか?色々な思いが溢れて来てね。
さ、気持ちを切り替えて、ラスト・ステージ、いざ出陣!!!
金尾哲夫
| 稽古場日記 | 12:00 | comments (x) | trackback (x) |
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