あとニ公演
どうも、皆様。
二度目のブログ担当要田禎子ようださちこです。
クヴァシニャーという名の「肉饅頭を売る女」を演じています。

私は会社勤めをしていた頃、裏千家茶道を習っていました。
先生は、′82年厳冬期エベレスト登頂を果たした直後に消息を絶った天才クライマー加藤保男氏の伯母にあたる方で、お稽古中に加藤氏についてや山のお話を沢山聞きました。加藤氏は先生のたてるお茶が大好きだったとも。
最後のエベレストには先生が編んだ靴下を履いていたかもしれないって。
先生ご自身も山歩きは勿論、スポーツは万能で、特にスキーは大変な腕前だった女性です。
私のオートバイのタンデムシートに着物で横座りして、「お菓子買うの忘れたわ。急いでお菓子屋迄やってちょうだい」なんていうお転婆な先生でもありました。

実はもう記憶も曖昧なのですが、裏千家の薄茶のお点前では、水差しの蓋はかなり早い段階で取って脇へ立てかけておきます。
習い始めの頃、何故水をすくう直前に蓋を取らないのだろう、埃が入るんじゃないかしらといつも気になっていました。
あるお稽古の日、柄杓で水差しの水をすくおうとした時、蓋がしたままになっていました。
私がお点前の中で取り忘れていたのです。思わずあっと声が出ました。
すかさず先生が、「ね、わかりましたか、あの時以外水差しの蓋を取るタイミングは無いのです。」と。
お点前の手順には合理的な理由があったのです。
その時、取り返しがつかないとはこの事かと思ったものでした。

お点前は最初から最後まで水が流れるように一度の滞りもなく、連続して進んでいきます。
その動きは、全く無駄なく、最小限で、そして徹頭徹尾合理的で、それゆえ誰がやっても優美なのです。
しまった、取り返しがつかないと動かない私に、先生は「でも大丈夫。柄杓をおいて蓋を取ればいいのです。いくらでもやり直しは出来ます。慌てない。」と。

私はそれから順番を間違えなくなりました。でも、間違えても平気だと余裕も持てました。以後お点前がとても楽しくなりました。

『どん底』に暮らす住人達は、人生のその時々の手順やら手続きやらを間違ったりしくじったりして取り返しがつかなくなった人達です。
いえ、取り返せるのだけれど、その術と機会がなかなか揃わないからこの穴倉から抜け出せないでいる。
この人達、家族に持ったらちょっと厄介でしょうけど、茶室に呼んで一杯のお茶を差し上げたら、さぞかし面白いお話を聞かせてくださるでしょう。
クヴァシニャー的には是非とも男爵さんをお茶室に呼びたいですね。
と言っても、もうあとわずかで舞台は終わってしまいます。 ちと淋しい。
| 稽古場日記::どん底 | 22:34 | comments (x) | trackback (x) |

  
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